兵 法 塾 状況判断

Military Art from T.Ohashi T.Takeoka

「状況判断」は、指揮官が任務達成のため、最良の行動方針を決定するために行うものであり、「決心」は、「状況判断」に基づく最良の行動方針を実行に移す指揮官意思の決定である。指揮官は、継続的に「状況判断」を行い、適時適切に「決心」しなければならない。-- 野外令 --

指揮官はその指揮を適切ならしむため、たえず状況を判断しあるを要す。 「状況判断」は任務を基礎とし、我が軍の状態、敵情、地形、気象等、各種の資料を収集較量し、積極的に我が任務を達成すべき方策(我は何をなすべきか)を定むべきものとす。敵情特にその企図は多くの場合不明なるべしといえども、敵としてなし得べき行動、特に我が方策に重大なる影響を及ぼすべき行動を攻究推定せば、我が方策の遂行に大なる過誤なきを得べし。指揮官は「状況判断」に基づき、適時決心をなさざるべからず。「決心」は戦機を明察し、周到なる思慮と迅速なる決断とをもって定むべきものにして、常に任務を基礎とし、地形および気象の不利、敵情の不明等により、躊躇すべきものにあらず。一度定めたる決心はみだりにこれを変更すべからず。-- 作戦要務令 --

目的を決めずに「状況判断」をすれば逆の答えがでる

状況判断は、目的を確立して行わなければならない。目的を見失うと、次の話のようになる。「・・・兄弟で驢馬をひいて歩いていたら、無駄なことをする、といわれたので、兄が乗ることにした。しばらくして行き違った人から、あの人は年少者に対する愛情がない、と非難されたので、遠慮する弟を馬上に押し上げたら、礼儀を知らない若者だと叱られた。それではと、二人で仲良く乗ったら、動物虐待だ、と騒がれたので、二人で驢馬を担いで帰ってきた・・・」この兄弟は「驢馬を利用するのか、驢馬を愛するのか? 礼儀を主とするのか、年少者をいたわることを主とするのか?状況判断の「目的」を確立しておくべきであった。・・・・我々は、積極的に目的達成の方法を考えねばならない。人間は、理屈さえつけば、消極策に逃避しようとする本能を持っており、これを理論づけるためにはあらゆる労をおしまない。我々も生産会議で「それはできない」ということを必死になって証明していることに気付いて、苦笑することが少なくない。理論的には、最も有利な方法を求めるべきであるが、現実的には積極的な方法を追求しなければならない。それでないと、苦しいときや危険なときには、結局、何もしないで、自滅してしまう。-- 大橋先生著「座右の銘」(1978年マネジメント社)より --

「状況判断」と「決心」

「状況判断」と「決心」は似ているが、本質的に違う。それは決心には責任をともなうが、状況判断にはそれがない。状況判断は客観的思考であり、決心は主観的な実行意思である。また状況判断は「計算」であり、決心は「創造」でもある。株や競輪・競馬では、金を賭けない場合には実によく当る。買ったつもり、売ったつもりで株を追いかけていると、たちまち大きな利益をあげることができるが、いざ金を出して売買すると、さっぱり儲からない。責任をともなうからである。この金を賭けない場合が「状況判断」であり、賭けた場合が「決心」である。決心のむずかしさはここにある。トップでなくては決心できないのもこのためである。状況判断は左右良否などの判断ではあるが、決心のように実行をともなうものではない。「状況判断」は基礎条件が変わるたびに変わるものであるが、そのたびごとに「決心」を変えることはない。すべて状況は刻々変化する。ところが、物事を実行するには、決心から行動に現れるまでに相当の時間と労力を必要とし、これは組織や仕事が大きくなればなるほど大きくなる。そのため、実行は状況変化の波についていけなくなるので、大きな組織のトップほど、上級幹部になるほど、また仕事の量が大きくなるほど、先を読み、時期を画して決心し、その間の状況の小変化は無視する。そうしないと、度々決心を変えることになって、部下はついていけなくて当惑し、その信頼を失ってしまう。状況は連続して流れており、混沌としてはいるが、よく見れば必ず節目がある。連続して押し寄せてくる自動車の流れにも必ず波があり、切れ目があるのと同じである。決心は状況変転の節目を見、決断を以て行う。そして大組織になるほど大刻みにする。状況判断は主としてスタッフ(参謀部・軍師等)やコンサルタント(遊説家・食客・縦横家等)に依存し、あるいはトップ自らが行うが、つとめて民主的にし、衆知を集めて行う。しかし決心だけはトップ自らが厳粛に行い、他に依存することは許されない。依存されても、責任を負えな者にはどうしようもないのである。-- 大橋先生著「兵法経営塾」(1984年 マネジメント社)より --

アメリカ軍の状況判断

現代のように、組織が大きくなり、行動が複雑化して、各種数多な要件を緊急に処理する必要が多くなると、もはや少数者の英知にのみ依存して状況判断をすることは不可能となり、危険・疲労・多忙等のために思考力の減退した凡人でも、一定の手続きを踏んで、組織的に活動することにより、自然に妥当な結論に到達できるように、状況判断のプロセスを標準化しておく親切が必要になってきた。物の見方、考え方の違う外国人と共同作業をする場合は、特にそうである。この点について、新しい解決策を開発したのはアメリカ軍である。多くの異人種の集合体であるアメリカ軍においては、「作戦要務令」方式は最初から実行不可能だったので、他国軍よりは熱心にこの努力をした。彼らの状況判断方式は、まず仕事を分割し、単純化して組織内の各人に分担させ、それぞれの部門の者が、定められた形式に従って各個に作業を進めていけば、自然に連繋がとれ、総合されて、結論にまで到達できるようになっており、その思考方式として、Operations research や System analysis を採用し、計算のためにコンピューターを駆使しているところに特長がある。「作戦要務令」式状況判断を、私が初めて教わったのは、十九歳のときの陸軍士官学校であり、鍛えられたのは三十歳台初期の陸軍大学校専科学生と参謀旅行演習であるが、そのいずれの場合にも、正直なところ、私は当惑した。つかまえ所がないからである。戦場において状況判断をするときには、また別の困難に当面した。極限状態に陥ることの多い実戦では、深遠高級な理論に想いを凝らすことのできるような環境は稀で、第一線兵団では、天才の名判断よりも、誰にでも容易にできる常識的な判断の方が貴重なのであり、現に私などは「これだけ知っていれば○○できる」式の画入りテキストを開発して、重宝がられたものである。こんなことになったのは、作戦要務令に、状況判断についての具体的な手続きが示されていなかったからであるが、それには訳がある。軍というものは、形式化を必要とするとともにこれを忌避しなければならない宿命をもっている。徴兵で入ってくる人間は育った環境の相違から、色々な考えと言葉と習慣を持っているので、これを統一ある行動をとらす手っ取り早い方法は一定の型にはめること(標準化)でどの国の軍隊でも生活様式・服装・所持品はもちろん物の呼称や言葉までも特種なもので統一する。しかし戦法の方はその逆で、型にはまったものではたちまち敵に乗ぜられてひどい目にあう。したがって戦略・戦術が形式化して創意を失うことを極度に恐れ、状況判断の具体的手続きを示すことなどは喜ばれなかったのである。しかし、この考えは、動員兵力が数百万となり、軍隊が素人大衆化するに従って、大きな欠陥を暴露するようになり、これが我々を苦しめたのである。-- 大橋先生著「状況判断」(1978年 マネジメント社)「作戦要務令」(1976年 建帛社)より --

米軍式「状況判断フォーム」について

簡単なことなら、その地域や相手の状況をつかむだけですぐに結論を出すこともできるが、複雑な状況になると、状況を分析して判断を行う必要がある。「フォーム」にしたがった場合、思考過程がすべての関係資料を順序よく、理論的に分析して落ち度なく正しい結論が導きやすいと考えられる。

< 利点として >

書くことにより客観的に思考しやすい
表にすることにより問題の整理ができる
目的・目標から逸脱しない
情報資料の混乱、抜け落ちを防ぐ
組織的に共通の情報を認識できる
効率よく結論を導くことができる
理論的に分析しやすい
順序よく思考できる
複雑な状況を簡明化できる
見る人により新しい判断(知恵)が生じる
だれが使っても安定した結論を導ける

<欠点として>

比較要因とその選定によって比重に差が生じやすい
導き出される戦略思想が画一化に陥りやすくなる

以上、欠点もあるがよく認識して活用すれば大変すぐれた手法である。

米軍式『 状況判断 』フォーム

「地域見積」と「情報見積」は形式上は「状況判断」と個別の幕僚見積であるが、本質的には状況判断の一部である。地域見積は、戦いの場・土俵の研究であり、情報見積はその土俵の上で敵がどのように行動できるかを探求するものであり、状況判断はその土俵の上でそのように行動できる敵を撃破(阻止遅滞)するために我はどうするのが一番よいかを追求するものである。地域見積は戦場となる地域が戦術的にいかなる特性をもち、それが彼我の戦術行動に及ぼす影響を明らかにするもので、その成果を情報見積及び状況判断の地域の特性に取入れる。情報見積は地域見積で分析した地域が敵の戦術行動に及ぼす影響を含んだうえで敵の採りうる行動を列挙し、それらの戦術的意義を探求したうえ採用公算の順位、わが任務への影響、敵の弱点を判定する。状況判断は情報見積の地域の特性、敵の可能行動をそのまま取り入れ、これと我が行動方針を組合せ、その場に惹起する戦況をすべて予想する。この戦況の読みのうえにたって各行動方針を、地形、敵の配置、敵の可能行動、我が配置等要因について比較し最良の行動の行動方針を求める。-- 武岡先生著「初級戦術の要諦」野外令基礎事項の探求(1972年 田中書店)より --

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