兵 法 塾 統 率

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「統帥」は「戦略 戦術」と密接なる関係を有す。しかれども「戦略 戦術」と「統帥」とは同一のものにあらず。「統帥」の「根本的意義」は「指揮官の戦略戦術上の考按」を如何にして「意志の自由と本能とを有する人間」に応用しこれを実行せしむべきやに在り。-- 統帥参考(統帥の要綱)より --

統 率

統率」とは、「統御」し、「指揮」することである。「統御」とは、集団内の各個人に、全能力を発揮して、「指揮」されようとする気持ちを起こさせる心理的働きかけである。「指揮」とは、「統御」によって沸き立たせ、掌握した各個人のエネルギーを総合して、 集団全体の目標に適時、集中指向し、促進して、効果的に 活用する技術的な働きかけである。 つまり、「統御」とは、部下にやる気を起こさせることであり、「指揮」とは、部下のやる気を 生かすことである。


統率と指導

「人事権にもとづく強制力を持つ者」が行うのは、意識して行使するとしないとを問わず(自分は行使するつもりでなくても、相手は行使されるものと思う)統率であり それを持たない者が行うのは指導である。指導とは、人々の支持(統御)を得て、これを誘導(指揮)することであるが、賞罰による支配や命令による強制もなく、実行に対して責められることもない。( ロレンス、明石、毛沢東、カストロ、等の本来は指導者。政治家は指導者であるが、大臣、行政長官になれば統率者である。)


統御の法則

部下にやる気をおこさせるのが統御であるが、多分に心理的なもので掴みどころがなく、 これに成功 するための理論を立てることは難しい。しかし次の四法則を充足させれば、 我々でも一応その目的を達成することができるし、充足させることができなければ、 どんな優れた人物でも、統御を維持することはできない。

第一法則  成功する 衆を率いるには、まず自らに何らかの権威・優越が必要である。
第二法則  利益(賞)を与える 鳥や獣でも餌をまけば寄ってくる。残念ながら利益は人を動かす基本条件である。
第三法則  恐怖(罰)を与える 利益は相手によって斟酌する必要があるが、恐怖はその必要がない。生命(生活)の危機を示せばよい。
第四法則  感情を刺激する ヘッドの次にハートを狙う。利益と恐怖で人は動くがこの時支配しているのは人間の理性だけであり、その刺激が去ればすぐ止まって しまう。全能力を発揮させ、永続させるにはプラス・アルファが必要である。統御を心理的に表現すれば、「動機づけ」であり、これには外的動機づけと内的動機づけがある。利益と恐怖は外的動機づけで、人間は一応これで動き出すが、心から「やる気」を起こさせるには、さらに内的動機づけが必要となる。そして統御の本来はこの内的動機づけ、すなわち利益と恐怖に付加すべき「ある何ものか」であり、ハートを狙うことにある。プラス・アルファを分析すれば「情熱」・「愛情」・「信頼」で、一語に集約すれば誠意である。「誠意」が人の心をうち人生意気に感じさせるということは、いつの時代、どこの世界にもある。-- 大橋先生著「兵法経営塾」(1984年 マネジメント社)より --

人間に感情がある以上利害打算を超えて、その心を揺さぶるもののあるのは当然である。一旦この感情的つながりができると、その後は何らの術策もいらなくなる。社会道徳の最も低下した時期(乱世)に楠正成諸葛孔明が出ているのがその例である。-- 大橋先生著「人は何によって動くのか」(1987年 PHP研究所)より --
策をもって準備せられたる被統帥者の精神の効果は一時的にして、しかも後日必ず反動あり。-- 大橋先生著「統帥綱領」(1972年 建帛社)より --
私は二十年間部隊長として戦地で戦い、二十五年間社長をつとめたが、その間一度も利益と恐怖による統率を意識したことはない。しかしよく考えれば、私の人情統御は陸軍刑法という峻厳な軍律によってサポートされていたし、就業規則に支援されていた。お釈迦様の掌上にいて、千里を走ったと思っていた孫悟空のようなものだったことに気づいたのはこのごろである。--「人は何によって動くのか」(1987年 PHP研究所)より --
情で動く原理」は人間の行動原理の中で最高のものである。この時、人は命も惜しまない強烈な結びつきになる。だが、一方で相手の信頼が崩れたときは、いかなる強力な関係も霧消してしまい、築くのに要した努力は水泡に帰してしまう。はかないものである。部下を信用しなくなったヒトラー(上司)を部下も信用しなくなり、信頼のないところには不毛しかない。情など一片もない乾き切った人間関係は悲劇を招いた。幹部を粛清し、いくら恐怖を示威したところでもはや何の意味もない。「情」で動くのが人間の真理であるなら、相互不信は対局に位置する醜悪な姿である。利害・打算の関係の方がまだましだ。そして、利害・打算を超えた情の関係とは比ぶべくもない。合理でない罰で部下を処し修羅場を創り出した者(ヒトラー)の末路がこれである。情宜で結ばれたときの人間関係のあり方も事実なら不信の泥沼もまた、真実である。どちらも人間の真理を映し出しており、その選択は我々次第である。-- 大橋先生著「人は何によって動くのか 」(1987年 PHP研究所)より --
知識という理性を動かすには、その前に勇気の感情を喚起しておかねばならない。危険に際しては、理性よりも感情のほうが強く人間を支配するからである。-- エネルギーを強く発揮するには、感情的な動機が必要であり、戦時においては、これは名誉欲である。(クラウゼウィッツ・戦争論)。-- 大橋先生著「クラウゼウィッツ兵法 」(1980年 マネジメント社)より --
武侯問いて曰く「厳刑・明賞、以て勝つに足るか」。呉起、こたえて曰く「厳明のことは臣つくすこと能わず。然りといえども恃むところにあらざるなり。--(呉子)--
それ主将の法は、務めて英雄の心をとり、有功を賞禄し、志を衆に通ず、 --- 国を治め家を安んずるは、人を得ればなり。国を亡ぼし家を破るは、人を失えばなり。含気の類は、ことごとくその志を得んことを願う。--- 為す者は則ち己、有する者は則ち士、いずくんぞ利の在るところを知らん。彼は諸侯たり、己は天子たり。--(三略)--


指揮の手順

指揮の方法には色々あるが、忙しい時でも、冷静を欠いた時でも、 手落ちなく、適確に実行する必要がある。

第一手順「状況判断」 この状況では、私はどうしたらよいのかを、絶えず考えている。
第二手順「決心」 私はこうする!と実行をともなう意思決定を適時行う。
第三手順「命令」 「決心」がついたら、これを「命令」によって発表する。状況により、「号令」・「命令」・「訓令」を使い分ける。
第四手順「監督」 「命令」(作戦)がどのように実施されているかを確かめ、必要があれば促進し結果によって教訓を求めフィードバックする。

号令・命令・訓令は同じように思えるが、はっきりした違いがある。命令の二大要件は、発令者の意図と受令者の任務であり、このうち一つを欠けば命令ではない。受令者の任務だけを示したものは号令である。逆に、発令者の意図だけ示して、受令者の任務に触れないのが訓令で、能力ある受令者に対し、現場における状況とその推移に応じ、能力を自由に発揮させようとする場合に使う。---- 号令・命令・訓令にはそれぞれ特質があり、組織の大小、仕事(任務)の内容、受令者の性格と能力、通信連絡の便否などを考えて、その場に最も適応するように、この四つを使い分けるべきである。
一般に組織というものは、その構成人員の増大に伴って発展するが、その状況はなだらかなカーブを画く変化ではなく、所々で異変を起こすのである。すなわち氷が零度を超えて温まると水になり、百度になると沸騰して蒸気となるような変異点を持っており、この点を過ぎるときに統率法を一変しないと、組織はばらばらになって崩壊する。工場でいえば、この変異点は社員数、五十人、五百人ぐらいの所にあることが多く、五十人以下のときは社長の号令で動くが、それを越えると命令でなくては動かず、五百人を越えているのに訓令を主用しなければ、半身不随になるのである。戦後、裸一貫で叩きあげた創業社長は、その盛業に幻惑されて、この変異点の到来に気付かず、大きな利益をあげていれば銀行も取引先も苦情を呈してくれないので、社員が増え、仕事も複雑になって、命令経営を必要としているのに、相変わらず数人で会社を創めた頃と同じように、号令経営をとり続けていて、本能寺における織田信長のように、高転びに転ぶのである。号令で動かせるのは四~六単位以下であることを忘れてはならない。
組織が大きくなり、その行動が複雑になると、トップは遠く先を読み、広く考え、多方面に気を配らねばならず、とても一人では指揮できなくなる。革新期に当面し、または企業が躍進している場合はとくにそうである。そこで、日常の仕事に拘束されることなく、考えたり、調査したり、計画を練ることに専念してトップの命令戦法を補佐するスタッフ(参謀部)が必要となるのであるが、とくに仕事のできる社長などは自分の能力を過信し、従来の盛業に幻惑されてこの事実に気付かず、なんとなく社員の動きが悪くなったのを感じ始めていらいらし、社内のあちこちを歩き回って叱咤激励するが、さっぱり効果がなく、逆に横暴、ワンマンなどと嫌われてしまう。企業がある程度成長したら、ライン・スタッフ組織による命令戦法をとる必要のあることを忘れてはならない。急成長の花形企業の不可解な倒産は、号令が主用されていることに殆どの原因がある。

号令・命令・訓令

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