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戦いのルールを学ぶにはそのもとになっている原理をまず理解する必要がある。
その原理から導き出された原則を理解し、併行して状況への適用の仕方を学ばねばならない。--武岡先生「兵法を制する者は経営を制す」PHP1983年(S58)3月より
『 私はかつて中隊長のとき、この適用方法がわからず悩んだことがあった。そのためマニュアル(歩兵操典・作戦要務令)の理解が足りないかもしれないと思って、改めて熟読玩味してみた。しかしそのときは一応わかったような感じはするが、さてそれではこの状況ではどうするかという、状況下の実行要領になると自信のある策案が浮かばない。いろいろ考えた末「実戦を研究してみたら」という、今にして思えばきわめて常識的な、しかも本質的な方法を思いついた。私の手元にたまたま格好の戦例集があったことがこの方法をとらせたのである。私は四冊ある本の中から、歩兵中隊の成功した戦例および失敗した戦例を抽出して研究することとし、毎日夕食後自室の淡いランプ(野戦では電燈がなかった)の下で作業した。方法は、戦例を攻撃篇と防御篇とに分け、ひとつひとつについて、一般状況、戦闘経過、教訓、要図を丹念に写した。それがすむと、ひとつひとつの戦例について、なぜこの場合は成功し、この場合は失敗したかを分析した。そのあと、攻撃で成功するための公約数(二つ以上の数に共通な約数)的な原則はなにか、防御はどうかというように各戦闘行動ごとに、コツともいうべき共通原則を探求した。このように分析を積み重ねた結果、わかってきた原則はなんと、これまで十分理解していると思っていた『作戦要務令』および『歩兵操典』に書かれている原則と、まったく同じものであったのである。このときの私の感激は、四十年経った今でも忘れられない。私はこの理解を胸に秘め次の作戦で活用したが、どんな状況に遭っても、まず迷うようなことはなく、自分でも驚くほどの戦果をあげることができた。※(湘桂作戦において戦功抜群として 大本営より「個人感状」、軍司令官より「中隊感状」を拝受された。) 「戦理」の理解はそれを適用できる状態までもっていかなければ、本当に理解したとはいえないのである。 』-- 武岡先生「兵法を制する者は経営を制す」PHP1983年(S58)3月 「湘桂作戦体験記」湘桂作戦戦記出版会1979(S54)7月より